声の共鳴についての勘違い
良い声と感じた話声や歌声は、どのように響いていると感じますか?
よく言われている表現は
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体全体から声が出ている。
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お腹から声が出ている。
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頭に声が響いている。
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鼻に共鳴している。
これらは全て正しいと言えますが、これはあくまでも感覚的な表現としてです。
実際には?
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声は体全体に響きますか?
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お腹から声が出ますか?
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頭から声が発せられますか?
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本当に鼻に声が響いていますか?
例えば女の子が何かに驚いて突然『キャー』と叫んだとします。
側にいた人が「あんた頭のてっぺんから何という声を出してるの!」と言います。
感覚的な表現としては頭のてっべんから声が出ているというのは正しいですが、実際に声が出ているのは口からです。
発声法における勘違い
感覚的な表現と物理的な事実を混同してしまうことにより、様々な発声に関しての勘違いが生じるのです。
共鳴腔が大きければ豊かな響きが得られるとよく言われています。
その理屈でいけば、バイオリンの胴体を大きくすればより良い音になることになってしまいます。
楽器にはその音域等から最適な大きさがあるのです。
そもそも発声における共鳴腔とはどこなのでしょうか?
声は楽器と違って言語の発音を伴った響きとして発せられます。
この事を考えればどこで声(響き)が作られるかは明らかになります。
言語は子音と母音で成り立っています。発声法でいう声の響きは母音の発音ということになります。
『あ・い・う・え・お』 の母音は、上顎・舌・口の形から作られます。
したがって、声の共鳴の場所は舌・上顎・唇でつくる空間のみということになります。
声は一方通行ですから、他の部分に共鳴してからということはあり得ないのです。
一番多い勘違いは鼻腔共鳴に関してです。
響きが豊かな声は、上顎の前方の上歯の上の部分の響きによって作られます。これは全母音共通の共鳴ポイントです。
この部分は鼻の裏側に位置するため感覚的に鼻に共鳴していると感じるのです。
顔面から声が出ているというのもこの勘違いです。この勘違いから意識的に鼻に空気を送り鼻声になってしまうことも多くみられます。
声楽のレッスンでは非科学的な感覚表現が優先され、それがむしろ有効なのですが、それだけでは発声法には結びつきません。
発声法とは正しい感覚的なことを実際の声の響きとして実現する方法です。
感覚的なものと実際にはどうなのかを合わせて考える必要があります。
声は響かせようとして響くものではありません。
何が声の響きを決定しているのかを知ることが本当の発声法につながるものです。