発声と脳との関係
大雑把に言えば、声は喉頭の筋肉とその周囲の様々な器官や組織を使って出しています。そこのことを踏まえて話を進めていきます。
では、これらの器官や組織が声を出すのはどういう時でしょうか。
もちろん「声を出したいとき」です。そして、声を出したいと考えるのは〈脳〉です。
脳の指令で声を作る
理屈っぽくいうと、脳の指令によって、声帯の筋肉を操作し、声帯が吐き出す空気の流れをコントロールして声が出る、ということになります。
このとき、脳からの指令は声帯だけでなく、声を作りだず全ての器官の筋肉にも届けられています。
例えば、のど仏に指をあてて、メロディーを出してみます。すると、高い声の時にはのど仏が高い位置に、低い声の時にはのど仏が低い位置に動くのがわかります。
喉仏があがれば声帯は閉じ、喉仏が下がれば声帯は開く方向にいっているということです。
こうした筋肉の複雑な動きは、全て脳の指令に基づいているということ、当たり前のことですがここが重要なポイントなのです。
コントロールは脳に任せる
上記のように複雑に絡み合ったたくさんの筋肉をコントロールするなんて、とてもできない!誰だってそう思います。誰にも“意識的”にできることではありません。
声を出すことに限らず、歩いたり、手を振ったり、目を動かすといった動作にも、さまざまな筋肉が関係し、複雑な動きをしています。
しかし、私たちはそれらの筋肉をコントロールしているわけではありません。「歩こう」「手を振ろう」「あっちを見よう」と思ったり考えたりするだけで、筋肉は無意識に動きます。
歌を歌うことも同様です。脳はどの筋肉を動かせば、どういう声が出るか無意識のうちに知っており、その指令は無意識のうちに出されます。
筋肉が素直にその指令に従えば、正しく歌うことができます。
ところが、「いい声で歌おう」「間違いなく歌おう」「上手に歌おう」という“意識”が働くと筋肉は意識と無意識、両方の指令を受けることになって、指揮系統が混乱します。
その結果、余計な力が入ったり、使わなくてもいい筋肉が働いたりということが起こります。
声を出すために使う全ての筋肉を、意識的にコントロールすることは絶対にできません。
熟練した歌手には、その一部をコントロールすることはできます。
が、声を出すことにまだよくなれていない人が、自分の声をコントロールしようとすれば混乱するだけです。
歌は頭(脳)で歌うものです。頭で“考えて”歌うのではありません。素直に歌う、それがオンチを治す第一歩です。
【参考文献】 「上野式 歌のトレーニング」 上野直樹 著